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WORKS事例紹介

「TRANS-IT!」人×文化×自然の交差点
川崎市稲毛公園

Kawasaki-city Inage Park

多様な過ごし方が混ざり合う
街の新たなプラットフォーム

神奈川県川崎市・川崎駅周辺の公共空間等を活用した回遊性の向上と、滞留空間としての活性化を目的に、稲毛公園のリニューアル計画が立ち上がりました。parkERsは本計画において、株式会社都市環境研究所、株式会社MADARAとJVを組みプロジェクトを進行しました。

有機的で不規則な水の動きをモチーフとしたデザインを軸に、人々が気軽に訪れ日常の中で利用することができる開放的な空間にリノベーション。ちょっとした作業や仕事の場としても利用でき、本を読んだり思索にふけったり、自分自身と向き合う時間を過ごすことができる落ち着いた環境を提供します。ここで過ごす人と人との重なり合いから新しい文化や交流が生まれていく空間となるよう計画しました。

親しまれた水の存在、土地に根付く文化と歴史、起伏を持たせた芝生スペース、人と植物の距離を近づける什器デザイン、石と切り株のサイン計画、夜間を彩る照明計画など...今昔を融合させ自然のあるべき姿を表現しながら、デザイン性を持たせたモダンな印象に置き換えました。

DATA
弊社の業務内容:コンサルティング、コンセプト提案、ランドスケープデザイン・施工、造作什器デザイン設計・施工

<Before> 人の往来は一定数ある一方で、滞在空間としての認知度は低かった以前の稲毛公園。

 

<After> 目的地に到着する前に立ち寄り、食料や燃料を補給するという意味を持つ Transit(トランジット)から導いたキーワード「TRANS-IT!」をコンセプトに据え、忙しいスケジュールの合間に立ち寄り、一呼吸ついて心身ともにリフレッシュできる空間に。またこの場を経由し通り過ぎていく中で、多様な人と人、人と街が交わり、新たな文化や交流が生まれていくことを目指し計画しました。

 

稲毛公園が隣接する稲毛神社周辺は河崎冠者基家居館堀跡として知られており、かつては居館の周囲に小川が流れ、大きな弁天池がありました。江戸時代にはこの小川や池を利用して「曲水の宴」が開かれていた歴史もあり、古くから水と関係の深い場所でした。そうした文化的な過去とのつながりも意識した、街の人に親しまれる空間となるよう、水の動きをモチーフとしたユニークな形状の芝生スペースを中央につくる計画としました。不規則な水のゆらぎを描く芝生の縁は一本のラインでつながっており、用途に応じたさまざまな過ごし方を提供します。また公園の近隣にあるペデストリアンデッキに見られる円形との連続性も意識しながら、川崎の街に馴染んでいく公園づくりを意識しました。

 

芝生を縁取るラインは、高さの異なる4段階で構成されており、芝生への入り口(地面と同じ高さ)、ベンチ、ローテーブル、カウンターテーブルの機能を兼ね備えています。これらの要素は高さを変えながら一続きにつながっており、一人で過ごしていても他を感じながら過ごせる空間としました。

 

江戸時代、東海道が通る川崎駅一帯は「川崎宿」と呼ばれ、江戸の人や土地の民が行き交う宿場町として栄えました。2023年には川崎宿起立400年を迎える中、公園内にも「東海道五十三次 川崎宿」のストーリーを伝える石碑が存在していました。

またかつて多摩川に架かっていた旧六郷橋の親柱が、関係者の協力のもと移設され公開されており、公園内には土地の歴史を伝える存在が点在していながら、公園の利用者とは隔離されたような印象がありました。

そこで文化や歴史にあらためてスポットを当て、過去と現在と未来が交わっていく場所とすることで、時間のつながりを感じられる場に。親柱は周辺を植栽帯で縁取り居場所を与えることで、唐突感を緩和し、風景の一部として溶け込むようにデザインしました。

 

象徴的な中央の芝生スペースには形状の異なる3タイプのマウンドをつくりました。山型、ドーナツ型、山+ドーナツのハイブリッド型。水面に滴を垂らした時に生じる波紋の形から着想を得て、なだらかに広がる起伏で表現。マウンドの心地よい傾斜を算出し、思わず大地に体を預け寝そべりたくなる寝心地、座り心地を追求しました。

 

手触りの体感度を高めるため芝生にはノシバを採用。芝生に腰掛けるなど、街中では普段体験できない植物と触れ合うきっかけの場となります。見え方の変化としてグラデーションのある鮮やかな緑から、休眠期には黄色く変化していくのも特徴。一年を通して変化する植物本来の姿を肌で感じられる場所になってほしいという想いが込められています。

またかつて多摩川周辺で暮らしていた先人たちは、ツクシやヨモギが土から顔を出す春頃になると、生活に使えるような植物を摘みに出かけていました。この「摘み草」の文化を伝え、昔の知恵や当時の暮らしぶりに思いを馳せるきっかけとなるよう、シロツメクサ・タンポポ・オオバコ・ヘビイチゴなど先人たちが生活に利用してきたような植物をたくさん忍ばせています。

 

芝生スペース内に設置した什器。座ったときに目線の高さに植物が生い茂るようなプランターをつくり、人と植物の距離が近づく什器デザインを計画しました。プランターの一部に設けたくぼみにちょうど収まるように腰掛けることができます。また目線の低い子供は座面に膝立ちをして植物の観察をすることも。周りに自然があっても触れ合う機会はあまりない日常に、ささやかな気づきと豊かな時間をもたらします。

 

オフホワイト、グレー、ターコイズの3色をアクセントにした景石のようなベンチは、親しみやすい雰囲気で公園のキャラクターを演出。角を落としたものや水に揉まれて丸みを帯びた表情のあるものなど、形も色も大きさもさまざまに、規則性を持たせず配置しました。

 

植え込みに放置されていた切り株に真鍮のプレートを合わせサインにリメイク。深く根を張る大きな切り株や神奈川県真鶴産の本小松石の存在が、リニューアルプロジェクトの想いを伝えます。

 

今年3月には、本計画でJVを組んだ都市環境研究所とともにワークショップを企画しました。川崎高等学校の学生を中心に、地元の小学生・中学生にもボランティアでご参加いただき実施。リニューアルに込めた想いをお伝えした後、稲毛公園のこれまでの印象や未来への期待、今後公園で行いたいこと、過ごし方などを自由にシェアいただきました。

 

「芝生の上でピクニック」「波の背もたれが日向ぼっこに気持ちよさそう」「SNS映えしそう」「天体観測をしたい」「ゴミ箱を設置してきれいに使いたい」など様々な声が聞こえてきました。

 

ブレストの後は完成間近の公園をみんなで見に行き、かつて摘み草をして親しまれていたミントやヨモギなどの和ハーブを什器の一部に植えました。

 

土や植物に触れているうちにみなさんの表情はどんどん柔らかくなり、和気藹々とした雰囲気の中で取り組むことができました。自分たちで植えた植物の成長を日常的に感じて、より愛着を持っていただけますように。

 

日没後はベンチやハイカウンター裏の間接照明と地面に埋め込んだダウンライトの暖かな電球色が公園を照らし、昼間とはまた違った、夜ならではの演出性と安心感を高めます。

地面に埋め込んだダウンライトは芝生への入り口を演出し、光を越えて芝生に足を踏み入れた時のワクワク感や、心地よさを想像させるきっかけに。また光のラインが浮き出る様子は、遠くから見た時にステージのような存在感を放ちます。今まで稲毛公園を利用していなかった人にも視覚的にアプローチし、歩み寄りたくなるよう意識しました。

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