愛宕グリーンヒルズ MORIタワー1階ラウンジ
梅澤:「暑くない」「寒くない」という快適さが当たり前になり、今ではヨガやマインドフルネスなど自分からアクションを起こして享受する次のステージの快適性を求める風潮に変わってきています。その潮流の一つに「Wellness」や「Well-Being」といった動きも出てきました。花や緑もその一つで、自分から手に入れられる「より快適なもの」。世界中で求められているのには、そういった背景があると思います。
parkERs ブランドマネージャー 梅澤伸也
梅澤:外的要因としては、SDGsに代表されるような“環境保護”や“地球との共存共栄”といった意識や価値観が重要視されていること。経済優先でない価値観に世界が向き始めています。
※SDGs(エスディージーズ)とは「Sustainable Development Goals」の略称。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成される国際的な開発目標。
parkERsプランツコーディネーター 児玉絵実(以下、児玉):
人の価値観は確かに変わってきましたよね。昔は高級な車を買って、いいホテルやリゾートに行くのが贅沢でしたが、今は自然に触れるキャンプや自分の庭で家族と朝食を取る方が豊かだという価値観に変わってきているのでは?と実感することがあります。
-「利益さえ上げればよい」といった経済のみが主軸だった考えから、社会や環境に配慮する意識が広がってきているのですね。デザイナー目線ではどうですか?
parkERsクリエイティブディレクター 城本栄治(以下、城本):
インターネットが普及する前は、何か情報が欲しいとき、例えば本屋で探すところから始まって、気に入った一冊を見つけるのに時間がかかりましたよね。でもページをめくっていく中で、本来求めていた情報ではないものから思わぬ発見があることもしばしば。インターネットがある今の時代は、何もしなくても勝手に情報が集まるようになりました。ただし集まってくるのは興味のあることに関連した情報だけ。
ファインシティ武蔵野富士見 マンションのカフェライブラリー
城本:求めていない情報に触れる時間=“ちょっとした無駄”は、わたしたちの感性を刺激する要素になり得ると考えています。クリエイティビティを高める空間に植物が求められているのは、植物が感性に刺激を与えてくれる存在だと世界が気づきはじめているからだと思います。
parkERs クリエイティブディレクター 城本栄治
-メディアで、植物のある空間が最近多く取り上げられているのは、そういった背景もありそうです。でも世の中の潮流とはいえ、実際に植物を導入するには何かきっかけが必要になりそうですね。
梅澤:城本、児玉、そしてわたし自身、植物のある空間が人にもたらす“豊かさ”、つまり植物の付加価値をすでに体験しています。だからまだその成功体験がない人に届けていきたい。とはいえ、裏付けとなるものがないと、単なる思想家になってしまいます。(笑)
-確かに「“なんかいい”というだけでは投資できない…」「効果を示すデータはないの?」という声は多いですね。
梅澤:そうですよね。植物を導入したくても費用対効果が見えないと実装できない…。そんな期待値を超えていくためにも、「植物ってなんかいい」を解明していくフェーズにきていると考えています。
7月より新設した「R&D(リサーチ&ディベロップメント)室」は、そのためのチームです。科学的根拠として、今まで解明されていない人と植物との相関関係をテクノロジーを使って科学していくチームですが、研究機関ではないのであくまでも「感性」を最大化するデザイン手法の一つという姿勢は変わりません
城本:あくまでも空間の心地よさを「体感させるためのテクノロジー」という考え方です。IoTといったテクノロジーも、植物とそこで過ごす人との交わりをデザインしていくためのフックの一つです。最近では、「Hamon Lamp」が良い例ですね。
「Hamon Lamp」が波紋を映し出すテーブル
水滴が落ちて、波紋の影を落とすオリジナルの照明装置
城本:開発を進めていく中で、最初はチューブを使って手動で水滴を落とす速度を調整するだけだったのが、今ではリアルタイムの天気と連動して雨の日は多く水滴を落とすことができるように。植物のある空間という人間が本能的に求めると言われている“原始的な心地よさ”を、意識しないと気づかない人にも体感してもらえるよう、最先端のテクノロジーを使って表現している一例です。
-グリーンなどの植物に限らず、自然のリズムである“天気”を室内で体感させるデザイン。アイデアが生まれる根底には、「人がどう感じるか」、「人にどのような影響があるか」といった考えがあるのですね。
梅澤:その通りです。余談ですが、最近「parkERsっていろいろやっているけど他と何が違うの?」
と聞かれたとき、「人と植物の距離感をデザインさせたら世界一です」という返答が一番しっくりきています。
児玉:実は植物のある空間をご提案するとき、植栽の品種を選ぶのは一番最後なんです。例えば、まずは「風を感じさせたい」という動機があって、それにふさわしい樹種が浮かび上がってくる。植物がメインでなく、人がその空間で何を感じるのか。人と植物の関係性を大切に、意識や感情から考えを逆に発展させるんです。
ブランドコンセプトの「日常に公園のここちよさを。」をきちんと表現するためには空間デザインを考える際に、「なぜこの空間にこの植物があるのか?」というストーリーがあることが大切です。装飾的なインパクトがあれば良いというわけではなく、人と植物のつながりを届けたいという思いは変わりません。
parkERs プランツコーディネーター 児玉絵実
-植物を用いた空間デザインは、具体的にどういった広がりを見せていますか?
梅澤:2020東京オリンピック・パラリンピックのマラソンコース(浅草地区)プロジェクトや茨城県の
フラワーパーク再生事業など、公共工事を務めさせていただいていることも、世の中が環境や地球の未来を
考えているからこその動きではないかと思います。
マラソンコース(浅草地区)のイメージパース
梅澤:世界的にそういった動きがある中で、日本人の技術やセンスは唯一無二だし、昔から縁側に腰掛けて庭を見ながら一息つく習慣や、床の間に花を活けたり軒先で園芸を楽しむ文化がありますよね。現代だとわざわざ休日にアウトドアに出かけることも。そんな自然と近い距離で共存してきたDNAが染み込んでいるわたしたちだからこそ、世界と戦えると思っています。日本の花や緑の栽培技術、デザイン性、技術から感性へ、そういったことに注目してもらいつつ、「日本から世界へ」挑戦していきます。
最後に、未来に希望があると思うのは、わたしたちの取り組みに、若い世代が興味を持ってくれていること。「緑があふれた世の中になるといいな」と共感してくれる。「モノを作って消費して捨てる」ことが格好悪い時代だと思うんです。サスティナブルに居心地の良い空間をお届けできるように、わたしたちも進化し続けていきます。
この6年の間に、IoTやAIといったテクノロジーは進化し、ますます便利になってきています。その技術を表現方法の一つとして使いながらも「花や緑で人々を豊かにしたい」というミッションは変わらないparkERs。
センシングによるデジタルメンテナンス技術を始めとした様々なテクノロジーを活用し、デザインを科学で裏付ける新たな取り組みも始めています。わたしたちはこの先も、植物と人との関係をデザインした心地よい空間が一時的なトレンドではなく普遍的なものになるよう、その効果や価値までお届けしていきます。